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21cm水素線の観測

2021/11/17
  • 県のICT教育の一環として高校の部活動の指導をさせてもらっているのですが、年度ごとに設けるテーマは学生の各チームごとに自由に設定してもらっています。時には未経験の分野が選定されるため、指導する側としてはなかなかヘビーな状況になったりします。本年度はチームのテーマのひとつに「電波望遠鏡」が登場し、全く理解のない天体観測の世界へ引き込まれることになりました。観測対象は比較的観測しやすい21cm線(中性水素の放射する電波)とのこと。生徒自身も実際に観測したことがなく、アンテナ作成から開始するもなかなか波形を捉えられない様子なので、状況を把握すべく簡易的ではありますが「天体観測」にチャレンジしてみました。
  • 高校の部活動の一環として作業しているので、観測用の機材にあまりコストはかけられません。色々調査して、下記サイトの記事を参考に天頂の銀河の21cm線を観測してみることにしました。
 
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使用機材

 
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観測

  • 繰り返しますが、下記サイトの観測方法をそのまま試してみます。
  • 使用するSDRソフトは SDRSharp で、最新版のインターフェースが使いにくかったため 2019年版 としました。RTL-SDRのパラメータ設定は、サンプルレートを2.4Msps、RTL AGCとTuner AGCはともにOFFとし、RF Gainは最大の 49.6dBとしました。その他の設定は上記の記事と同じです。

    SDR#settings.PNG

  • システムのダイアグラムは以下のとおりです。記載していませんが、ノートパソコンの電源はACアダプタ経由で家庭用100V電源から供給しています。

    WSB001212.PNG

  • 今回は天頂のみを観測するため、みかん収穫用のコンテナを4つ積み上げて一番上にパラボラアンテナをビニール線で固定し設置しました。

    antenna_1.JPG

  • アンテナ出力のN型コネクタに変換コネクタを介してLNAを直付けし、1.5mのSMAケーブル3本をSMA中継コネクタでつないで室内のSDRフロントエンド(RTL-SDR)に接続しました。RTL-SDRとノートPCは50cmのUSB延長ケーブルで接続しました。上記の記事ではRTL-SDRもLNAに直付けしたほうが良いと紹介されていましたが、どうもRTL-SDR内蔵の増幅器のゲインが外気温で大きく変化するようで、日没前後で観測スペクトルのレベルが大きく変化してしまいます。21cm線の観測がやりにくいので、RTL-SDRは室内に配置することにしました。
  • 今回の観測は昼夜をまたいで長時間行うことになるので、屋外に配置するLNAとその接続部には、夜露を防ぐための紙コップとダンボールで作成した簡易カバーを取り付けています。ダンボールは日中の日差しを防ぐためにつけてあります。
  • 1度目の測定はノートPCの近くでデスクトップPCが動作しており、また、ノートPCには外部ディスプレイを接続した状態で観測しました。観測帯域 1420MHz ±1.2MHz には盛大にノイズが発生し、水素線らしきスペクトルを確認したものの、ノイズとの区別ができず残念な結果となりました。

    WSB001213.JPG

  • その後色々調べると、デスクトップPCの電源を切るとノイズが大幅に低減し、またノートPCに接続している外部ディスプレイを取り外すとノイズはほぼ消えることに気が付きました。測定をやり直したところ21cm線をクリアに捉えることができました。

    WSB001214.JPG



  • 観測したデータをタイムラプス動画にしてみました。天頂を銀河が横切るタイミングで、1420.4MHz付近のスペクトルが盛り上がります。これが21cm水素線らしいです。






 
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まとめ

  • 海外の紹介記事を参考に、簡易なシステム構成で21cm線の観測を行いました。 説明のとおりやれば確実に観測できる、と高をくくっていたのですが、実際に観測してみると観測の品質は周囲環境に大きく影響されることがわかりました。特にパソコンから出る人工ノイズに関しては、どうもパソコンに繋がる外部ディスプレイ(とディスプレイケーブル)から盛大に輻射しているようで、5~6m程度の距離を離してもほとんどノイズレベルが低下することはありませんでした。都会の人の密集した環境で品質の良い観測を実現するのは難しそうです。
  • Stellarium というプラネタリウムソフトウェアと一緒に観測を行うと、天体の移動とともに観測波形が変化していく様子がわかり、遥か彼方からの信号をキャッチしているのだと改めて実感します。全く関心のなかった天体観測ですが、その魅力に取りつかれる人がいるのも納得できる体験でした。




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